第1章:日本海・竹野沖で発見された「謎の遺体」
1987年12月26日午前10時頃。
兵庫県城崎郡(現・豊岡市)竹野町の沖合の日本海上にて、漁船が1体の遺体を発見しました。
- 性別:男性
- 年齢:35~40歳程度
- 身長:165cm
- 体型:やや小太り
- 足のサイズ:24cm(小柄な体格)
- 顔立ち:角顔(頬骨が張ったアジア系の特徴)
- 着衣:ベージュ色毛糸のチョッキ、薄緑のポロシャツ、木綿製救命胴衣(ハングル表記あり)
死後は約2~3週間が経過しており、冬の荒れる日本海を漂っていた可能性が高いと推定されます。
第2章:着衣と救命胴衣──何を物語るのか?
この事案で最も注目されるのは、救命胴衣に「ハングル文字」が記載されていたという点です。
また、胴衣は木綿製であり、現在のようなプラスチックや発泡材を使用した商用製品ではなく、船舶に付属する簡易な装備とみられます。
このことから以下の点が浮かび上がります:
- 救命胴衣は北朝鮮製または朝鮮半島での自作品の可能性が高い
- 乗船していた船舶も商業船ではなく密航・工作目的の小型船だった可能性
- 軍用・特殊活動用であった可能性も排除できない
ハングル表記の救命具を装着した人物が、日本の漁業区域に近い沖合で遺体として発見されるという事実は、単なる事故死では片付けられない“意図”の存在を想起させます。
第3章:工作員か、密航者か──北朝鮮からの「漂着死体」の系譜
1980年代、日本海側では以下のような事件が多数発生しています:
- 北朝鮮からの木造船の漂着
- 遺体のみの発見(数人分の遺体や部分遺体)
- 身元不明・所持品も国籍を示さない(または完全に排除)
特に注目されるのが、日本に侵入を試みた工作員や脱北者の「失敗した末路」としての漂着です。
このケースもまさにその一つと見られ、以下の2つの線で推測されます:
① 北朝鮮の工作員が作戦に失敗
- 救命胴衣装着=途中で沈没や転覆に遭遇
- ハングル表記を排除していないのは、緊急脱出のためか突発的事故
② 密航あるいは脱北途中での事故死
- 小型船による深夜出航→遭難→漂流
- 冬の荒波の中での冷水・衰弱による死亡
第4章:なぜ日本の領海に遺体が漂着するのか?
日本海側でこうした遺体が見つかる理由には、以下の地理的・気象的要因があります:
- 日本海を北東から南西へ流れる対馬暖流の影響
- 冬季の北朝鮮沿岸からの強い季節風と海流
- 小型木造船や無動力船では操舵不能になるケースも多発
その結果、漂流した遺体や船が新潟・石川・福井・兵庫・山口などに定期的に漂着していた記録があります。
実際、同様の事例は:
- 山口県萩市(1983年)
- 石川県輪島市(1986年)
- 島根県浜田市(1988年)
などでも複数報告されており、本件もその一連の流れの一端と考えられます。
第5章:「名もなき者」の死を、私たちはどう記録すべきか
この男性は、今も身元不明のまま火葬され、仮埋葬されていると推測されます。
その存在は官報と、わずかな新聞報道、そして行政文書の中に記録されたのみです。
何を目指して海を渡ったのか?
誰の命令で、どこに向かっていたのか?
何を背負って、海の底に沈んだのか?
私たちは知るすべを持ちません。
しかし、この「名もなき男の死」は、日常の裏で進行していた冷戦と密航のリアルを突きつけてくるのです。



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