第1章:午前4時、バルコニーで発見された遺体
1988年(昭和63年)11月3日早朝、東京都練馬区豊玉北三丁目にある集合住宅「桜台コーポ」で、2階のバルコニーに男性の遺体が倒れているのを住人が発見しました。
通報を受けた警察と救急隊が到着した時点で、男性はすでに死亡。現場は施錠された2階のバルコニーであり、部屋の中からバルコニーに出た形跡はなかったとされています。つまり、屋外から2階に侵入した、あるいは転落してきた可能性が浮上しています。
第2章:男の特徴──誰だったのか?
発見された男性は以下のように記録されています:
- 本籍・住所・氏名不詳
- 年齢:推定35歳前後
- 身長:163cm
- 体型:やせ型、細面
- 特徴:下歯3本欠損
衣類や所持品、身元確認に繋がる物は一切なく、財布・免許証・保険証なども所持していませんでした。見た目に職業や生活背景を想像させるような要素も少なく、警察は事件性の有無を慎重に調べましたが、最終的に「死因不明のまま」処理されました。
遺体は現在、帝京大学に保管されています。医学部等による解剖・身元調査の目的で一時的に預けられたと考えられます。
第3章:バルコニーにいた理由──考えられる4つの可能性
この事案で最も不可解なのは、なぜ“他人の住宅の2階バルコニー”で発見されたのかという点です。現場状況と常識を踏まえ、以下の可能性が挙げられます。
① 外部から侵入して死亡(転落・自死未遂)
- バルコニーによじ登ろうとして足を滑らせ、墜落死または衰弱死
- 窃盗目的で侵入中に体調を崩した
- 寒さや疲労で意識を失った可能性
※2階であれば、気合いがあればよじ登ることは可能とされています(雨樋・給湯器・柵等を利用)
② 室内からの転落(住人または訪問者)
- もともと部屋にいたが、何らかの理由でバルコニーに出て倒れた
- ただし、部屋の住人が「知らない人」と証言している場合はこの線は薄い
③ 他者による遺体遺棄
- 事件性がある場合、他者が死体を運び、バルコニーに置いた可能性
- 2階という中途半端な高さが逆に“死角”となった可能性も
④ 自死の可能性(服毒・飛び降りなど)
- 故意にバルコニーへよじ登って身を投げたが、たまたま落ち方が浅かった?
- 服毒後、息絶える直前に誰かの家のバルコニーで力尽きた?
これらのすべてが否定できず、かつ身元確認も困難なことから、警察は「死因不詳・事件性不明」のまま処理したと考えられます。
第4章:なぜ身元がわからない?──都市に潜む“無記録の人々”
現在の日本では、住所不定や無戸籍、ホームレス状態で生活している人々が数多く存在しています。特に1980年代後半の東京では、都市への流入と同時に社会保障制度から“こぼれ落ちた”人々が街中に多数存在していました。
この男性もまた:
- 生活保護や国保などの公的支援から外れていた可能性
- 家族や親類と絶縁していた可能性
こうした「記録に残らない人々」は、死亡時に身元がわからないだけでなく、生きている間もあらゆる制度から排除されていた可能性が高いのです。
第5章:事件か、孤独死か──答えなき死の記録
この男性の死は、事件と断定するには証拠が足りず、自然死・病死とするにはあまりにも状況が不自然です。
- なぜ2階のバルコニーだったのか?
- なぜ身元が完全に不明なのか?
- なぜ誰も彼を探していないのか?
それは、答えのない問いばかりです。しかしひとつ確かなのは、この男性が確かにこの社会に生きていて、そして誰にも知られずに亡くなったという事実です。
都市の片隅で、ひとつの命が消えたことを、「変わった事件」で終わらせてはなりません。



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